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明治時代は百年前に完結した歴史ではない

明治天皇に関する画期的著作が刊行

茅島 篤 教育学博士

今年は明治天皇が崩御した明治四十五年から百年目に当たり、このほど明治天皇に関する画期的著作が刊行された。

著者によれば、子どもたちが学んでいる昨今の教科書に限らずで歴史書でも、明治時代における天皇の役割は「不当に軽視ないしは無視」されており、いわば「主人公を欠いた歴史」になってしまっているのだそうだ。明治天皇に関しては、ドナルド・キーン氏の『明治天皇』(新潮文庫)や松本健一氏ほか碩学による書物も出ているが、どこか隔靴掻痒の感は否めなかった。

明治天皇は生涯に十万首ちかくの御製(和歌)を詠まれたことでも知られている。著者は、御製こそは明治天皇のお心を知る最も確実な史料であると言う。本書で紹介された明治天皇の御製は百五十首以上に上っているが、御製を通じて明治という時代の息吹と精神が、そのまま読み手の心にもダイレクトに伝わってくる。御製やお言葉(詔勅)をふんだんに織り交ぜながら、明治の御代の「主人公」に肉薄した本書は、類書にはない、新鮮な感銘を与えてくれる。

本書は、明治天皇と六大巡幸、大日本帝国憲法と明治天皇、教育勅語と明治天皇、日清・日露戦争と明治天皇、明治の外交と領土問題、明治天皇と明治の祭祀、明治の終焉から構成されている。明治天皇の生涯を追いながら、テーマ別に論じている点もユニークである。主要な祭祀についての謬説には論証している。

明治時代は百年前に完結した歴史では決してない。例えば、「グローバリズム」「地球市民」といった言葉は今日の流行語(クリーシェイ)だが、明治の「文明開化」はその走りとも捉えられよう。だが、そうした普遍的な理念を追求すればするほど、我が国古来の伝統を侮蔑するようになったのも、明治という時代の一面であった。その欠陥をいち早く指摘し、国の向かうべき方向を軌道修正した人物こそが、明治天皇だったという著者の指摘は傾聴に値する。

温故創新。一寸先も見えないような混迷の現代にあって、本書は時代の「羅針盤」たり得る一冊であると思料する。本書を広く江湖に薦める所以である。

※「図書新聞」3078号(平成24年9月15日付)

明治の御代―御製とお言葉から見えてくるもの