日本の歴史・伝統文化など「日本人の誇り」を甦らせる書籍の出版をしています

二千年の真姿を明らかにするために

両国聖地相互順拝を

本書がほぼできあがった頃、日韓教育文化会議の代表である草開省三氏を団長に、私は教育関係者ら21名とともに韓国を訪ねた。
過去の歴史認識をめぐって両国がギクシャクしていることは、お互いに不幸である。歴史教科書をめぐって相互理解を深め、成熟した歴史観を育てたい。
韓国側は安長江氏(元・大韓教育連合会副会長)が世話役となって、第1回セミナーを持つための訪韓であった。

金浦空港に降り立つと、安長江氏はじめ、本書に紹介している林成洙氏、そして金乙成氏は、6人の友人とともに出迎えてくださった。
その時、金氏は感激に震える声で我々に挨拶した。流暢な日本語である。

「私は韓国人として日本の皆様方に頭が下がります。
皆様はこれから直ちに魔尼(まに)山にのぼられ、塹城壇に敬意を表されると聞きました。
魔尼山は韓国民の心の故郷であり、国の聖地であります。かつて国祖・壇君が天を祀られた所であり、そこに参拝される日本の皆様に、韓国人としてどんなに感謝したらよいか、言葉もありません」

すると、それを受けて、安長江氏は、

「皆さん方は、日本人の中のホンモノです。昨日まで雨が続いていたのに、魔尼山に登られると知った天の神は、“韓国晴れ”を演出しました」と続けた。

魔尼山はソウルから西へ40余キロ。江華島の南に聳える山で、海抜468メートル。
金、林両氏のみならず、壇君を信仰の対象と崇める大教の宣道師・金文謙氏も同行した。一行は悪路を克服しながら、ほとんどの人が頂上を極め、金文謙氏の解説を聞き、金氏の祈りに従った。
私は金乙城氏と終始同道しながら、日韓関係について話した。日韓のしがらみを解放するにはどうしたらよいか。まず私の方から、今度の訪韓の目的を話した。

「5月13日には、教科書の相互理解をめぐってセミナーが行われる。その前にぜひ済ませておきたいことがある。
まず明10日には、李朝歴代の王や皇帝の眠る金谷陵や英園(李垠・方子両殿下の墓)に参拝し、あわせて方子妃殿下の慰霊祭にも参加する。
そして12日には、ソウルにある国立墓地と、大邱にある聖華寺境内の“第二次大戦韓国人犠牲者慰霊碑”にお参りする。我々としてはまず、韓国の最も尊貴な精神的価値に対して敬意を表したい」

聞いていた金氏は、思わず私の掌を握りしめた。

「有り難うございます。韓国と日本の心を結ぶには、それしかありません。
日本には“話せばわかる”という言葉がありますが、話さない方が心は通ずる場合があります。私は日本に行ったら、伊勢神宮や明治神宮、そして靖國神社に参拝し、1月2日には皇居参賀をしました」

金氏は、私がかねてから考えていた通りのことを言う。いや私が考えていた以上のことを、黙って行っているのだ。百年の知己を得た思いであった。

 

「和シテ同ゼズ」と日韓感動の秘話を

5月13日、いよいよ本番の「第一回日韓(韓日)教育文化協議会」に臨んだ。
会場はソウルにある「韓国教育開発院」である。この開発院は、教科書の国際比較を行い、教科書作成に寄与することを目的としている。事前に相互に翻訳したレジュメを渡したが、通訳はすべて安長江氏が担当した。韓国側の出席は、歴史専門の大学教授や小中高校長ら10名である。

最初に日本側から明星大学の高橋史朗教授が、基調発表を行った。
高橋教授はドイツとポーランドが、「教科書勧告委員会」を作って、合意を模索した経緯を語り、合意できた点、できなかった点を明らかにし、共通の教科書作成の困難性を指摘した。さらにヨーロッパ12カ国が、4年間にわたって共同研究し、『欧州共通教科書』を作製したが、どの国も利用は副読本程度に止まっている例を紹介した。最後に日韓の教科書は、論語にある「和して同ぜず」の心構えをもって、「共感的理解」の方向に進むべきことを強調した。

続いて韓国側から、韓国教育開発院の国際比較研究部長である柳裁澤博士が立った。氏は数ある日本の歴史教科書をよく調べており、昨日まで日本の各地の教育団体で講演してきたという。

「柳先生が沢山ある日本の教科書を分析された発表に敬意を表する。
私も韓国の国史教科書(中・高校用)をよく読んだ。韓国は国定教科書だから1冊しかない。簡単に分析できる。私が、柳先生にならって、日本の立場から、韓国教科書の歪曲例を挙げ出したら、いくらでもある。
しかし、内政干渉めいたことはしたくないので、今回はやらない。相互に揚げ足を取りあって、反日嫌韓感情をかきたてるよりも、忘れられた美談・佳話を掘り起こそうではないか。韓国は歴史が古く、幾度も異民族の侵略を受けながらも苦難を克服してきた。それだけに多くの英傑や忠臣を輩出した。一度の敗戦で腰を抜かした日本として学ぶべき点が多い。私はそれをスライドにしているので、スクリーンに映し出しながら紹介したい」

私はそう前置きして、主として本書のグラビアの部分を中心に、約80コマを上映した。草開氏にも発表を協力して貰い、安氏はうまく要約して通訳してくださった。
自作のスライドを上映しながらの発表は、効果があったのだろうか。懇親会の席上で、「日本側(高橋・名越)の発表はユニークで、我々の気づかない視点が多かった」とか、「このような研究交流を是非とも継続したい」との反響を貰った。

 

本書最後の主題

本書には様々の主題や狙いが込められている。しかし、刊行直前になって、急遽訪韓したこの報告が、最後の主題となった。要約すれば、次の3点に尽きるのではないか。

① 我々をガイドした㈱全国観光の金實女史は何度も言っていた。
「韓国人は率直にものを言うが、日本人は黙って反論しない。納得しているのかと思うと、陰でブツブツ言っている。これでは韓国人の不信感をかきたてるばかりだ」と。
昭和57年の教科書事件以来、韓国は日本の教科書関係者に何度も歪曲例を示し、改訂を要求してきた。日本側はできるだけそれに応じて教科書を書き直した。こういう一方通行はやめて、日本側も韓国教科書の事実誤認や歪曲例を指摘したらどうか。
本書でもいくつか指摘しているが、むしろ全面的に逆襲して「歴史観は相対的なこと」に気づいて貰うことが親切であり、不信感を取り除くことになる。

② 日韓二千年の交流史は、加害とか被害とかで断定できるものではない。それは複雑にからみあった歴史のドラマである。
心あたたまる感動の秘話が多く、これを日韓双方で掘り起したらどうか。
本書では、韓国から勲章を貰ったり、記念碑を建てられた日本人の秘話や、日本に尽した韓国人の業績や遺産を紹介している。

③ 韓国の建国の理想は「弘益人間」(弘く人間を益する)であって、それは「博愛的共存の哲学」と解釈されている。
また韓国の国旗(太極旗)にある中央の巴(ともえ)は、陽(赤)と陰(青)から成る太極(宇宙)で、四隅の黒い罫(け)は、転地日月を意味する。韓国民は宇宙の調和を理想としているのである。

我々はこの国柄に敬意を表するばかりでなく、韓国民の精神的聖地や歴史上の偉人・英傑に共感的理解を持ち、教訓を汲みとろうではないか。

我が日本も、和を尊び、八紘を宇とする建国の理想を持ち、多くの偉人を輩出している。相互の間に共鳴の世界が生れないことがあろうか。

 

『日韓共鳴二千年史 これを読めば韓国も日本も好きになる』