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「ヤスクニを守って」地球の裏側の子供たちからの手紙

日本が失ったもの

ブラジルは家族の絆がとても強い。また、年配者への尊敬の念も篤いという。このことと、「亡くなった方々の思いを尊重する心」とは必ずつながっているはずだ。つまり、「ご先祖様を大切にする心」がブラジルには生きているのではないか。そのことについて、真由美校長はこう語って下さった。

「おじいちゃん、おばあちゃんが家族の中で一番愛されなくてはならない、尊敬されるべき人だとブラジル人はみんな、思っています。おいしいものがあったら、まず、おじいちゃん、おばあちゃんに食べてもらう。親を殺した者は極悪人で、牢屋に入れられたとき、同じ殺人犯でも親を殺した者は仲間うちで殺されてしまうのがブラジルです。『親には手をあげるな』というのが鉄則です」

生徒たちの作文の中に、遺族の悲しみを慮る心が強いのも、自分たちが家族の愛に包まれていることを実感しているからだろう。「おばあちゃんを守ってくれてありがとう」という英霊への呼びかけも、日頃の祖父母への敬愛の情がなければ、とても出てこない。「ご先祖様を大切にする」というのは日本の美風だったが、今やブラジルにそのお株を奪われたようである。
日本との比較で言えば、もう一つ、気になることがあった。17才の女子生徒が英霊に呼びかけた次の一節だ。

(ナタリア・恵美・浅村)
皆様、戦争で日本はまけた。
でも、あなた方の命はむだにはならなかった。
だって、今、私達も、日本の人も幸せ一杯でしょう。

この呼びかけに対して、「そうね。私たちはこんなに幸せだものね」と応じられる日本の青少年が、今果してどれだけいるだろうか。最近の耳を疑いたくなるような少年犯罪の数々。「少年の心の闇」にとまどう大人たち。そんな日本社会に比べて、「私達は幸せ一杯」と断言できるブラジルの子の、なんと羨ましいことだろう。

私が取材したときもそうだったが、 訪日使節団の生徒たちは、青年らしい活力に満ちていて、礼儀正しい。今の日本の高校生に彼らのような雰囲気を感じさせる子を見つけるのは、相当難しいと思う。生きることに幸せを感じているか否か、それが日伯の子供たちの輝きに差をつけているような気がしてならない。真由実校長はこう言われた。

「ブラジルは年間10パーセントのインフレと闘っていて、貧富の差も激しい。生徒たちの家庭の状況も様々ですが、経済的に日本より恵まれているとは決して言えません。けれど、どんなに貧しくても、神を信じ、いのちを受けたことに感謝し、家族や隣人を大切に生きていくことがブラジル人の幸せなのです」

暗雲たれこめる日本社会に比して、ブラジルは健全な明るさを保っているようである。  祖父母や両親の愛情に包まれ、家族や友人との深い絆の中に、生きる喜びを見出しているブラジルの子供たち。その子供たちだからこそ、祖国のために戦った青年たちの気持ちも、愛する息子を失った母親の悲しみも、心を痛めて慮ることが出来るのだろう。

子供たちの「靖国を守って」という祈りには、人間の勇気や悲しみに対する共感が根底にある。反対に、様々な絆を断ち切られ、個がさまよっている日本社会では、共同体を守るために起ち上がる勇気への共感も、愛しい者の命が奪われた悲しみへの共感も、失われていくばかりだ。

近年、靖国問題といえば中韓国との政治問題ということになってしまっているが、根本はそのような、日本人の「心」の変質の問題なのだ―。地球の裏側の子供たちからの手紙は率直に、そのことを私たちに訴えている。

雑誌『正論』平成15年9月号掲載

日本の皆様、靖国神社を守って下さい-ブラジルの中高生からの手紙