日本の歴史・伝統文化など「日本人の誇り」を甦らせる書籍の出版をしています

重なり合ふ主張 保守主義の歴史【書評】

「神社新報」平成20年8月18日掲載

リー・エドワーズ著
『現代アメリカ保守主義運動小史』

江崎道朗(日本会議専任研究員)

「戦後レジームからの脱却」を掲げた安倍前政権に対してアメリカは批判的だつたと言はれてゐる。どうやらそこには、アメリカが押し付けた「占領遺制」の是正を、当のアメリカが賛同するはずがない、といふ思ひ込みがあるやうだ。

しかし、このほど発刊された『現代アメリカ保守主義運動小史』を読めば、さうした思ひ込みがとんでもない勘違いであることが判る。

日本敗戦後、占領政策を日本に押し付けたのは、占領軍に入り込んだ「ニューディーラー」と呼ばれるリベラル左派の学者・官僚たちであつた。本書によれば、この「ニューディーラー」たちはアメリカ本国でも同時期に、教会を中心とした地域共同体や家族を解体し、道徳教育を否定するといつたリベラル左派の社会政策を推進してゐたのである。このやうなリベラル左派の社会政策と、アジア・東欧の共産化を黙認するなどソ連共産圏に宥和的な外交政策に反発して立ち上がつたのが、「アメリカの保守主義者たち」であつた。

彼ら「アメリカの保守主義者たち」の主張を読むと、「戦後レジームからの脱却」を支持する我々日本側の主張と見事に重なり合ふことに気付かされる。
例へば、日本を戦争に追ひ込んだルーズヴェルト民主党政権の対日圧迫外交に対して当時、敢然と反対を唱へてゐたのが共和党のロバート・タフト上院議員だ。彼は戦後も、北方領土をソ連に譲ったヤルタ協定を批判し、東京裁判についても「勝者に敗者の裁判は、どれほど司法的体裁を整へても、決して公正なものではありえない」と非難している。このタフト上院議員こそが、現代アメリカ保守主義運動の最初の偉大なリーダーなのである。

このため、「ルーズヴェルト民主党政権の戦前・戦中のアジア外交を批判したタフト上院議員」を再評価するといふスタンスで歴史観の見直しを進めていけば、アメリカの保守派の支持を得る形で東京裁判史観の見直しを進めることができるのだ。

国内政策についても、日米保守派の意見はほぼ重なり合ふ。
アメリカの保守主義者たちは戦後一貫して、政府や大学に巣くう共産主義者たちを告発し、「差別反対」を理由に言論の自由を抑圧しようとする「反差別・人権擁護法案」やジェンダーフリーを容認する「男女平等条項改正法案」に反対し、「愛国心と道徳的秩序、そして家族の価値を尊重した教育の再建」を訴え続けてきたのである。その地道な活動が保守系シンクタンクの登場とともに急速に世論の支持を得て、ついに知日派のレーガン政権誕生へとつながつたわけである。

関連して、日本でも近年アメリカの政策の影響か、できるだけ官僚組織を縮小する「小さな政府」といふ理念が提唱されるやうになつてゐる。
しかし本書によれば、「小さな政府」とは、官僚の数を減らすことが目的などではない。非効率的な政府・官僚組織に依存しない代わりに、「自助と共助の原点である家族を強化する」とともに、「教会を中心とした地域共同体を強め、寄付とボランティアに支へられた宗教慈善団体による貧民救済・人生相談機能を充実させる」ことで、「国民一人ひとりが家族と地域社会の担い手となる」といふ人生観に裏打ちされた政治理念なのである。

日本流に解釈すれば、「小さな政府」とは、政府官僚組織に依存することなく、「厚い信仰心と道徳を持ち、神社を中心とした氏子共同体に積極的に参加し、ともに地域共同体を支へる一員として活躍する」とともに、「家庭にあつては神々を敬い、祖先に感謝を捧げる中で支へ合い助け合う家族を築く生き方を志すことだ」ということにならうか。

とするならば、「神社を中心とした共同体」、「敬神崇祖の家庭」といつた理念に裏打ちされて初めて「小さな政府」といふ政策は成り立つのではないかといふ提案を、日本の保守主義者は是非とも行ふべきである。

なほ、本書の著者は、レーガン、ブッシュ政権を支へてきたアメリカを代表するシンクタンク「ヘリテージ財団」の特別研究員を務めるリー・エドワーズ博士である。博士は、アメリカ保守主義運動のリーダーとして長年運動を牽引してきた立場から保守主義の歴史と哲学を判りやすく説明してゐる。

翻訳者の渡邉稔氏は『アメリカの歴史教科書が描く「戦争と原爆投下」』(明成社)といつた著作がある国際問題評論家で、巻末には渡邉氏による解説として「アメリカの建国から第二次世界大戦までのアメリカの政治史」と「本書に登場する二百五十五人の詳しい紹介」などが掲載されてゐる。