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私の薦める一冊の本

明治の御代-御製とお言葉から見えてくるもの

貝塚茂樹  武蔵野大学教授

平成二十四年七月三十日は明治天皇が崩御されてから百年にあたる。明治神宮では百年祭の儀が厳粛に斎行され、関連の記念行事のいくつかも進行している。

「降る雪や明治は遠くなりにけり」は、昭和のはじめに中村草田男が詠んだ句である。それから時を経て、当時とは比べようもない程に明治は「遠く」なっている。オリンピックの熱狂の陰で、百年祭を取り上げた報道はほとんどなく、ましてや明治天皇の御聖徳に思いを馳せようとする機運は今の日本にはもはや期待できないようだ。

こうした時代の風潮に警鐘を鳴らすかのように編まれたのが本書である。少なくとも私にはそう読めた。もちろん、勝岡氏の筆致はいつものように冷静で実証的である。しかし、「天皇の御存在は無視したままで、明治時代を描く歴史叙述となっています」(3頁)という指摘は、教科書をはじめ戦後の歴史学に対する異議と怒りが込められている。それは、御生涯に約十万首もの御製(和歌)を詠まれた明治天皇の御心に触れることなく明治の歴史を描くことはできないという確信へと連続している。「明治天皇の御製とお言葉(詔勅)を中心軸に据え、そこから何が見えてくるかという視点で、明治の御代を描こうとした」(4-5頁)という本書の意図は、ごく「あたりまえ」のものである。この「あたりまえ」のことさえ無視してきた歴史叙述とは一体何であったのか。筆者と同じく私も暗澹たる気持ちになる。

本書は、六大巡幸に始まり、大日本帝国憲法、教育勅語、日清・日露戦争、明治の外交と領土問題、明治の祭祀を取り上げた六章からなっている。明治の国造りの歴史そのものを生きられた明治天皇の御心が、そのいずれの局面においても重要な意味をもちえたことを本書は余すところなく描写している。

近代国家建設という壮大な使命を背負われた明治天皇が、「欧化」と「伝統」という宿命的な葛藤の中で、いかに御自らの義務を完遂されようとしたか。本書はその答えを数多くの御製を通して現代の私たちに示される。

 ときどきに かはりゆくとも いにしえの 聖(ひじり)の御代の おきてわするな
 (明治四十五年)

本書は、歴史研究の新たな視座を切り開いた画期的な書である。また、御製を通じた明治天皇の御心に触れることで、日本のあるべき姿と今後の指針を掲示してくれる。明治天皇が崩御されて百年の節目にあたり、本書発刊の意義は大きく、本書に出会えたことに心から感謝したい。

※「教育創造」No.83

『明治の御代―御製とお言葉から見えてくるもの』