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加瀬英明 『皇室と日本人』刊行に寄せて

『皇室と日本人』刊行によせて

 

加瀬英明加瀬 英明
外交評論家

皇族に長い時間をお割き頂いて、御皇室について、あるいは御皇族の日常について、直接にお話を伺う機会に恵まれることは、国民の一人として恐懼に堪えないことである。

読者は恐れ畏まるというと、表現が古いように感じるかもしれない。だが、言葉遣いは時代とともに変化しようが、日本人の皇室に対する崇尊心は時を超えて、変わらないと思う。

寬仁親王殿下は本書のなかに再録された御発言のなかで、天皇の「ご存在は、神代の神武天皇から百二十五代、連綿として万世一系で続いてきた日本最古のファミリーであり、神道の祭官長とでも言うべき伝統、さらに和歌などの文化的なものなど、さまざまなものが天皇様を通じて継承されてきたわけです。世界に類をみない日本固有の伝統、それがまさに天皇の存在です」と述べられている。

さらに「国民が現在の天皇様を尊崇して下さっているのは血脈というか、世界に例を見ない男系で続いてきた万世一系だからこそだと思うのです。何代目の天皇が好きだとか、何十代の天皇が好きだという方はあまりいない。天皇陛下という制度、システムそのものを大切にするということを、何となく皆さんが体感して下さっている……日本の皇室は外国の王侯族のようにパワーでのし上がったり、革命で潰れたりとか、そういう権力を持つ存在ではありません。権力と権威を分けてきた」と仰言っているが、鋭い指摘だと思う。

日本の皇室と、他の王朝とのもっとも大きな違いは、外国では王朝が支配者であってきたことにある。王による専制が、あまねく行われてきた。それに対して、日本では天皇と国民が一体となってきた。

七世紀の大化改新は明治の御一新と並ぶものだが、天皇が「万民宰(おさ)むるは独り制(おさ)むるべからず、要(かなら)ず民の翼(たすけ)を須(ま)つ」という詔(みことのり)を発している。その四十一年前に、聖徳太子が『十七条憲法』を発布して、大事なことは全員でよく協議して決めることを命じている。

このような精神が受け継がれて、明治天皇が明治元年に『五箇条の御誓文』のなかで「万機公論ニ決スヘシ」「上下心ヲ一ニシテ」と、誓われている。明治二十三年の『教育勅語』では「朕爾(なんじ)臣民ト倶(とも)ニ‥‥其(そ)ノ徳ヲ一(いつ)ニセンコトヲ庶畿(こいねが)フ」と述べられている。その八年前に発せられた『軍人勅諭』には、「朕ト一心ニナリテ力ヲ国家ノ保護ニ尽サハ」という一節がある。

御皇室こそ、日本を日本たらしめてきた。

親王殿下が皇室典範改定問題について御意見を述べられたが、皇位継承が政治を超えた歴史と伝統にかかわる問題だとされて、「正しいことをいって置くべきだ、と考えました」と語っていられる。殿下はそれとともに一連の御発言が政治にかかわることがないように配慮されて、去る一月二十日の通常国会開会後は発言をお控えになっていられる。

本書の刊行については、私が本年一月に宮邸に伺候した時に、殿下が『文藝春秋』『正論』などのインタビューにお答えになられることをうかがって、殿下の御見識を国民のできるだけ広い層に知ってほしいと考え、単行本として出版することについてお許し下さるようにお願いしたことから、発している。

殿下は出版が国会開催中になると、政治的な意味合いをもつことにならないかと、強く御軫念された。私からすでに公表された御発言を収録することになるから、そのような御心配は当たらないと言上した。殿下から最後にわが国の法曹界の権威者に、意見を求めるようにとの御指示があった。

そのような手続きを経たうえで、本書の出版について御承諾をいただいた。良書を上梓することができたことを、殿下に深く感謝申し上げたい。

なお、殿下は皇室典範の改定をめぐって、毎日新聞とのインタビュー(同紙、一月四日付朝刊に掲載)にもお答えになられている。本書に再録した御発言の内容と重複したところが多かったことから、本書に収めなかった。

本書がひろく読まれることを、願いたい。

平成十八年 三月

加瀬 英明
昭和11年、東京生まれ。慶應大学経済学部、エール大学、コロンビア大学に学ぶ。 「ブリタニカ国際大百科事典」初代編集長を経て、現在、外交評論家。

 

『皇室と日本人 寬仁親王殿下 お伺い申し上げます』